RAW現像実践編 ~風景写真編~

夏の日の夕方にとある渓谷の吊橋から、その下を流れる渓流と渓谷を撮影しました。川の澄んだ水の色と元気いっぱいの緑の色のコントラストが美しく、それを奥から差し込む光がさらに演出してくれていました。パンフォーカス(できるだけ被写界深度を深くする)にするため、吊橋の上から斜俯瞰(斜め上から)でピントが合う面を水面と平行に近づけています。また、夏特有の遠景(奥)の霞が遠近感を少し出してくれています。これは空気遠近法と呼ばれるもので、近くのものははっきり写り、遠くのものは水蒸気など大気の影響で霞むことで遠近感を表現する方法の一つです。山頂から撮影した雲海と山峰の写真などが代表的な例ですね。この霞のおかげでパンフォーカスであっても写真に奥行き感を出すことができますのでこの写真では活かして行きたいと思います。
では、撮影時の状態をチェックして仕上げ方の方針を決めていきましょう。
RAW現像の調整で仕上げ方を迷わなくする方法の一つとして、作業前に調整目標を決めておく方法があり、慣れるまではおすすめです。

作例: RAWデータを開いたままの状態

  1. 1写真全体が少し暗く特に緑色が濁っている
  2. 2緑の鮮やかさがイメージよりも弱い
  3. 3メリハリが弱い

鮮やかで力強い風景写真に仕上げてみたいと思います。

露出補正で写真を明るく

露出補正では写真全体の明るさを調節します。
明るさを調節することで、色の鮮やかさも変わって見えます。
例えば、暗目に表現した場合には色は濃くなりますが、暗い部分では黒っぽく色がくすんでしまうことがあります。また、明る目に表現した場合、色は鮮やかになりますが、パステルっぽく淡くなってしまう場合があります。
明るさは写真の第一印象を決めてしまう事が多いのでイメージに近い明るさになるように調整しましょう。

作例: 露出補正(補正前)
作例: 露出補正(補正後)

この例では右側の葉っぱに太陽が当たっている部分(ハイライト)が強調される暗いまで明るく(+1/2)露出補正を行いました。この写真の場合あまり明るくしすぎると水面の青さ白っぽく薄くなってしまいますので全体の明るさのバランスを見ながら調節しました。

ホワイトバランスで色合いを調節する

写真を見て、色の濁りが気になったり、色合いがおかしいと感じる場合があるのではないでしょうか?その場合にはホワイトバランスがイメージ通りになっていない場合があります。ホワイトバランスとは写真全体の色合いを調整する機能です。RAW現像ではホワイトバランスを後から変更することができますので、イメージ通りになるように調整してください。

作例: ホワイトバランス(補正前)
作例: ホワイトバランス(補正後)

撮影時の状態(カメラのオートホワイトバランスで撮影)では葉っぱの緑が青っぽく感じます。またその影響で色も濁り発色も悪いように見えます。ホワイトバランスの中の「色温度」のスライダーをオレンジの方向へ調整し、青みを緩和させることで、木々の生き生きとした緑色になりました。
このように、ホワイトバランスがすれていた場合に調整することで自然な鮮やかさを表現することができます。

ワンポイント

ホワイトバランスは環境光や照明の影響による色かぶりを緩和させる機能です。最近のデジタルカメラのオートホワイトバランスは精度も向上し、一般的なシーンでは外すことも少なくなってきました。ただし今回の写真のような場合はイメージと異なる結果になる場合があります。それはどのような場合でしょうか?

ホワイトバランスの正解が写真の中に複数存在する場合
この写真では一枚の写真の中に「太陽光に照らされた部分(ややオレンジ)」と「日陰の部分(青)」が含まれています。しかし、写真に設定できるホワイトバランスは一つですので、どちらかの色かぶりを緩和させるともう片方が強調されてしまいます。その場合、撮影者が、RAW現像時に画面を見ながらバランスの良いホワイトバランスに設定すると良いでしょう。
光の色を表現したい場合
ホワイトバランスとは色かぶりを補正する機能です。言い換えると太陽や照明の色味を無色透明に近づけるのがオートホワイトバランスの基本的な役割です。
しかし、写真表現では「光の色」が重要なシーンもたくさんあります。例えば太陽の暖かな日差しの色味、朝夕の青さ、また屋内撮影の場合には照明の色味の雰囲気など。
その場合にはRAW現像時にホワイトバランスを調整し、自分のイメージする色味に近づけることで写真の表現力も高まります。

調子で明暗差を強調し立体感を

調子ではコントラストと呼ばれる、明暗差を調節する機能で「軟調~硬調」などに仕上げていきます。

軟調とは
明暗差の小さな柔らかい雰囲気の写真です。ポートレートなどに好まれる場合が多い調子です。低コントラストともいいます。
硬調とは
明暗差が大きく暗い部分と明るい部分がはっきりとした写真です。風景や鮮やかな被写体に好まれる場合が多い調子です。高コントラストとも言います。
作例: 調子(補正前)
作例: 調子(補正後)

コントラストのスライダーを強めに設定することで、もともと暗い部分はより暗く、明るい部分はより明るくなります。そうすることで写真手前、木の部分に立体感が生まれます。また中間調から暗い部分にかけては色も鮮やかになり写真に力強さも出てきます。
コントラストが高くなることで、水面のツルっとした質感、岩のざらざらした感じなども強調され精細感も増します。

フィルムシミュレーションで色表現する

RAW FILE CONVERTER EX 3.0 powered by SILKYPIXはRAWで撮影した場合、フィルムシミュレーションを後から変更することができます。撮影時にカメラの設定で決め切れなかった場合やプリント時に変更したい場合などメニューから選ぶだけで色表現を行うことができます。

作例: フィルムシミュレーション(補正前)
作例: フィルムシミュレーション(補正後)

撮影時設定は「PROVIA/スタンダード」だったものを、風景写真ではおなじみのフィルムシミュレーション「VELVIA/ヴィヴィッド」に変更することで、より抜けの良い鮮やかな写真に仕上がります。フィルムシミュレーションは被写体や仕上げ方に応じて色々選んでみてください。

ファインカラーコントローラで緑だけの色味を調整

写真のなかで一部分の色だけを調整したいこともあるでしょう。ファインカラーコントローラでは指定した色毎に「色相(色合い)」、「彩度(鮮やかさ)」、「明度(明るさ)」を調整することができます。指定した色以外には影響が少ないのが特徴です。

作例: ファインカラーコントローラ(補正前)
作例: ファインカラーコントローラ(補正後)

緑の色合いを少し高く調整し、彩度を高め鮮やかにしました。水面や岩肌などの色はそのままの色味を維持します。

調整前/調整後

作例: 調整前 作例: 調整後

中央のバーをスライドさせると、調整前と調整後の写真を切り替えることができます。

緑深い生き生きとした写真に仕上げることができました。